危険な契約書



契約書は、「形式」「内容」の両方をしっかりと整える必要があります。無造作に作成すると、形式不備で証拠力が低下したり、意図した内容と違った結果になってしまったり、思わぬ落とし穴に落ちてしまうので注意が必要です。

契約書の形式

契約書の構成のページでも述べているとおり、契約書に決まった形式はありませんが、最低限記載しておくべきものがあります。

上記は契約書を作成するには絶対必要です。当事者の記載がなければ、誰に権利や義務が帰属するのか分かりませんし、記載に瑕疵があれば、それがもとで争いになるかもしれません。契印がなければ、つながってない部分は契約書の一部として認められません。分離してしまった部分に重要な条項があったりすれば、契約書の効果は半減してしまいます。署名だけでも、理屈で言えば契約は成立するのですが、押印を欠けば、「契約成立の途中だ」という反論をされることもあります。契約書の形式が整っていなくても、無効とならない場合もありますが、証拠としての価値が下がってしまっては、せっかく作成した意味がありません。印紙の貼付なども必要に応じてしなければなりません。(印紙の貼付を欠いても契約書が無効になるわけではありませんが、過怠税が課せられてしまいます。)また、契約書が登記に関係があるものは注意が必要です。登記申請はとても形式に厳格です。契約書だけの問題なら、住所の記載が多少間違っていても誰であるか特定できれば有効として扱われますが、登記申請においては、ちょっとした誤字でもその書面は役に立たなくなる場合がありますので、登記に絡む契約書はより厳重にチェックして作成してください。

公序良俗に反する契約

契約の内容は当事者の間で自由に決められるのが原則ですが、なんでも自由だというわけではありません。まず、「公序良俗に反する契約」無効です。
「公序良俗に反する」とは、公の秩序又は善良の風俗に反するの略で、民法90条に規定されています。規定としては一般・概括的に定められているので、具体例は判例に拠らなければなりません。

【民法第90条】
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。


【公序良俗違反の判例】

  • 賭博に敗れたため負担した債務の弁済を目的とする資金の貸付けは、公序良俗に反し無効である。(大判昭13・3・30民集17-578)
  • 酌婦としての稼働を約する契約は無効であり、これと密接に関連して不可分の関係にある前借金に関する消費貸借契約も無効である。(最判昭30・10・7民集9-11-1616)
  • 債務者の経済的困窮に乗じて締結された、債務不履行のときには債権額の約八倍の価格の不動産を債権者が確定的に取得する旨の契約は、公序良俗に反し無効である。(最判昭38・1・18民集17-1-25)
  • 法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。(最判平15・4・18民集57-4-366)
  • 出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者とする旨の就業規則条項の適用に関し、その基礎とする出勤した日数に産前産後休業の日数を含めない旨の規定は、労働基準法等が当該権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものであるから、公序に反し無効である。(最判平15・12・4判時1847-141)


信義誠実の原則違反、権利の濫用

信義誠実の原則とは、「相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則をいいます。(信義則)
権利の濫用とは、外形上は権利の行使と認められる場合でも、そのときの諸般の事情から、道義上許すことのできない法律上権利行使のことをいいます。
信義誠実の原則に反したり、権利の濫用をするとその法律行為は無効となるおそれがあります。

【民法第1条2項】
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
【民法1条3項】
権利の濫用は、これを許さない。


法令で禁止される契約条項

民法90条は概括的に「公序良俗違反は無効」としていますが、民法はじめ他の法令で、公の秩序を具体化した規定としての強行規定が多数おかれています。強行規定とは、当事者間の合意で変更できない規定のことです。契約は当事者の合意で自由に決められます(契約自由の原則)が、この強行規定は変更することができません。いくつか具体例を挙げてみます。

民法の強行規定

民法には「物権」に関する規定があります。物権とは、所有権、地上権、質権、抵当権などをいい、法律でその定義は決まっています。(物権法定主義)物権に関する契約も自由にその内容を決められますが、定められるのは、債権債務に関するもので、物権の内容を変更するような契約は認められません。例えば、「質権」という担保物権が民法にはあります。

【民法第342条】
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

質権は、債権者が債務者又は第三者から物を受け取って占有することによって効力が生ずるものです。法律で「債権者が物を占有する」と定められているので、「物を債務者や第三者に預けたまま質権を成立させる」というのはありえないということになり、たとえ当事者で合意して質権設定契約書に「担保物は第三者が使用収益する」などと条項を作っても法令に反して無効となり意味を持ちません。物権に関する契約は、物権の内容を曲げないよう注意する必要があります。

利息制限法、出資法

利息制限法
【第1条】
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
①元本の額が10万円未満の場合        年2割
②元本の額が10万円以上100万円未満の場合  年1割8分
③元本の額が100万円以上の場合       年1割5分

【第4条】
1.金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条に規定する率の1.46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2.前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。


出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
【第5条】(高金利の処罰)
1.金銭の貸付けを行う者が、年109.5%(2月29日を含む1年については年109・8%とし、一日当たりについては0.3%とする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2.前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年20%を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3.前2項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年109・5%(2月29日を含む1年については年109・8%とし、1日当たりについては0.3%とする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

【第5条の2】(高保証料の処罰)
1.金銭の貸付け(金銭の貸付けを行う者が業として行うものに限る。以下この条及び次条において同じ。)の保証(業として行うものに限る。以下この条及び次条において同じ。)を行う者が、当該保証に係る貸付けの利息と合算して当該貸付けの金額の年20%を超える割合となる保証料の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合となる保証料を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2.前項の保証に係る貸付けの利息が利息の契約時以後変動し得る利率(次条第2項において「変動利率」という。)をもつて定められる場合における前項の規定の適用については、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を貸付けの利息の割合とみなす。
①当該保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により利息制限法 (昭和29年法律第100号)第8条第2項第1号 に規定する特約上限利率(以下この条及び次条において「特約上限利率」という。)の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
②前号に掲げる場合以外の場合 年10%
3.第1項の保証が、元本極度額(保証人が履行の責任を負うべき主たる債務の元本の上限の額をいう。以下この項及び次条第3項において同じ。)及び元本確定期日(主たる債務の元本の確定すべき期日(確定日に限る。)をいう。以下この項及び次条第3項において同じ。)の定めがある根保証(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証をいう。以下この項及び次条第3項において同じ。)であつて、その主たる債務者が個人(保証の業務に関して行政機関の監督を受ける者として政令で定める者が保証人である場合に限る。)又は法人である場合(債権者が法令の規定により業として貸付けを行うことができない者である場合及び利息制限法第8条第5項 に規定する場合を除く。)における第1項の規定の適用については、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を貸付けの利息の割合とみなす。この場合においては、元本極度額を貸付けの金額と、元本確定期日を返済期日としてその計算をするものとする。
①当該根保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により特約上限利率の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
②前号に掲げる場合以外の場合 年10%
4.金銭の貸付けに保証を行う他の保証人がある場合における前3項の規定の適用については、第1項中「貸付けの利息」とあるのは、「貸付けの利息及び他の保証人が契約し、又は受領した保証料」とする。

【第5条の3】(保証料がある場合の高金利の処罰)
1.金銭の貸付けを行う者が、当該貸付けに係る保証料の契約の後に当該貸付けの利息を増加する場合において、その保証料と合算して年二十パーセントを超える割合となる利息(年20%を超える割合のものを除く。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合となる利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2.金銭の貸付けを行う者が、保証があり、かつ、変動利率をもつて利息が定められる貸付けを行う場合において、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を超える割合による利息(年20%を超える割合のものを除く。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
①当該保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により特約上限利率の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
②前号に掲げる場合以外の場合 年10%
3.金銭の貸付けを行う者が、根保証(元本極度額及び元本確定期日の定めのあるものに限る。)のある金銭の貸付けを行う場合において、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を超える割合による利息(年20%を超える割合のものを除く。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
①当該根保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により特約上限利率の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
②前号に掲げる場合以外の場合 年10%

利息制限法は、金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約及び賠償額の予定について、利率の制限を加える法律です。これに反する利息や、賠償額の予定額を契約で合意しても無効となります。出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)は、貸金業者などを規制することを目的として、出資金の受け入れを制限し、浮き貸し・高金利などを取り締まる法律ですが、こちらも利息等の制限が設けられ、これを超えると無効になり、また処罰規定まであります。これらの法律も強行規定であり、当事者で合意したからといって法外な利息を定めても無効です。金銭消費貸借契約書や、連帯保証契約書を作成する際、これらの法律に違反しないよう注意する必要があります。

身元保証に関する法律

身元保証ニ関スル法律
【第1条】
引受、保証その他名称のいかん問わず期間を定めずして被用者の行為により使用者の受けたる損害を賠償することを約する身元保証契約はその成立の日より3年間その効力を有す。但し商工業見習者の身元保証契約についてはこれを5年とす。

【第2条】
1.身元保証契約の期間は5年を超ゆることを得ず。もしこれより長き期間を定めたるときはその期間はこれを5年に短縮す。
2.身元保証契約はこれを更新することを得但しその期間は更新の時より5年を超ゆることを得ず。

【第6条】 
本法の規定に反する特約にして身元保証人に不利益なるものは総てこれを無効とす。
※ 読みやすいようにカタカナと漢字の一部をひらがなに置き換えてあります。

入社等の際に身元保証人をつけるように求められることがあります。この身元保証は、金銭の保証と異なり、保証人が予想しない損害賠償を請求されたり、本人が勤めている間はずっと保証しなければならなくなったりと様々な弊害があったのでこの法律が作られました。
この法律では、身元保証の期間は保証人となるときに特に何も定めなかった場合は3年となり、合意で定める場合は5年を超えることができないとなっています。5年を超える保証期間を定めたときはその期間は5年に短縮されます。これらの規定は強行規定ですので、身元保証契約書を作成する場合、保証の期間は最大5年であり、これを超えて定めても意味はありません。